これは大好きな都市アンティグアに長く滞在しすぎた為に、逆にアンティグアの事が嫌になりそうになった男の日記を元に深層心理まで掘り下げた読み物である。(2005年10月12日の日記より1部抜粋)


今度こそ本当にアンティグアから解放される日。始まりは自ら望んでこの町へやってきたはずなのに、いつの間にかこの町を出たくて出たくて仕方がなくなっていた。一体何なんだろうこの感覚は、こんなに滑稽な事は無い。俺はアンティグアという街自体はどちらかというと好きな方である。いやどちらかと言うよりも、完全に好きだ。ペンション田代という日本人宿は何よりも抜群だし、宿の周りの環境も抜群で言う事はない。アンティグアという環境は気に入っているハズなのに、この変な感覚はなんなのだろうとずっと考えていて、それがようやく今日分かった。そう、そこには俺達の旅のメインであるはずのバイクツーリングというものが全く存在していなかったのだった。

朝9時頃まだ思いっきり寝ていた宿のみんなを無理矢理たたき起こし、無理矢理見送ってもらい、ようやくアンティグアを出発。ほぼ1ヶ月ぶりのバイクに跨りアクセルを吹かしていくにつれ、更にその理由がはっきりとした輪郭を持つようになった。これだ。この感覚なのだ、俺が望んでいたものは。ヘルメットを通して聞こえてくる風切り音、唸りを上げる225ccのエンジン音、そして時折感じるひんやりとした空気。アンティグア滞在中、もやもやしていたものが何か一気に吹き飛んだ感じである。


確かに「日本人宿」は楽しい。それも長く沈没すればするほどに楽しいのは分かっている。海外まで行って何を日本人旅行者とばかりつるんでいるんだという方もいるかもしれないが、1度「日本人宿」にでも泊まってもらえばこの感覚は理解してもらえるのかもしれない。我々日本人の第1言語は言うまでもなく日本語である。だがしかし、海外旅行中に必要になる言語は言わずと知れた「英語」「スペイン語」の両巨頭である。ハワイ以外では一切日本語の出番のない海外旅行において、学生時代に習ったはずの「英語」そして「スペイン語」で一応は不自由なく旅行ができ、困る事は少ない。だが、自分の気持ちを全て相手に全て思いのままに伝えきる事ができないのもまた事実である。そしてそこには知らず知らずのうちに少なからず言葉のストレスというものが生じているのだ。長く旅行を続ければ続けるほどに「ソレ」は溜まっていく。そんな時不意をついて現れる「日本人宿」に転がり込み、無意識のうちに日頃のストレスを発散させている旅行者も少なくないはずである。

俺達も例に漏れず日頃のバイク旅の疲れを癒す為、旅先で見つけた「日本人宿」には必ずといっていいほど立ち寄るようにしている。そして日頃上手く取れないコミュニケーションの帳尻あわせをしている様なものである。だが、そこに思わぬ落とし穴があったのだ。前にも触れたが俺達の旅のメインはバイク旅である。それが「日本人宿」で1週間、2週間、3週間と滞在が伸びていくうちに「バイク旅」に向いていたベクトルが、ある日突然方向を変えて別の方角を向いてしまうのだ。なんせ「日本人宿」にはいろんな誘惑が多い。全てのそれに目をつぶれというほうが土台無理な話なのだ。「バイク旅」という目標を失った俺達は、ついには牙の折れた狼の様にいつのまにか「旅」に対するモチベーションが下がってきてしまい、「旅」以外のあらゆるものに目を向け始めるのだ。そうなるといつのまにやらいたずらに滞在だけが伸びてしまい、再び次の場所目指して出発するのが完全に億劫になってしまう。

これでは、はっきりと目の前に「自分の進むべき道」が見えているにも関わらず、まわりからのいろんな誘惑や、日々の仕事の忙しさにかまけて平凡な毎日に埋もれてしまい、みずから「自分の夢」への焦点をぼかしてしまう、どこかの国のサラリーマンと同じ様な状態である。こんなに日本人宿が楽しいのなら、いっその事旅の予定を大幅に変更して1つの日本人宿で1年間ぐらい長期滞在してみるのもいいなと思うことも多々ある。こういう状態から元の状態に戻るまでには思っていたよりもかなり大きな意志の力を必要とする。海外旅行中だからとか日本にいるからとかは一切関係無い、自分がどう出るかなんてのは要するに自分の意志の強さ、そしてその声に従いはじめの1歩を踏み出す事ができるか否かなのだ。今の俺にははっきりとどちらが「どう」とは言えない。だがはっきりと一つだけ言える事がある。一番肝心な事は「自分」が何をしたいのかという事である。どちらの道を選ぼうが「満足」するのも「後悔」するのも結局は「自分」なのだ。「後悔」してくれるのは「他人」ではない。かならず自分なのだから。

話は完全に逸れてしまい、なんだかかなり変なレベルで「日本人宿」と「日本」をシンクロさせてしまったが、結局のところその根本である「自分」というものに一切違いは無いという事か。丁度良い機会に、あわせてこれを「自分」と「友達」へ向けた共通のメッセージとしたい。「日本人宿に沈没せずに出発する方法」。簡単な様でいてこれが相当難しい。